JPAより「障害者制度改革のうごきと難病対策見直しの現状について」
2012.03.13
障害者制度改革のうごきと難病対策見直しの現状について(第1報)
―障害者総合支援法案閣議決定をふまえて―
JPA(日本難病・疾病団体協議会)事務局長 水谷幸司
* この報告は、現時点での障害者制度改革と難病対策見直しのうごきについて、JPA代表理事、副代表
理事と協議して作成したものです。今後、節目ごとに、みなさまに情報提供をさせていただきます。
○障害者制度改革における「難病など」への対象拡大
3月13日、「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律案」が閣議決定されました。
この法案は、民主党が政権公約としてかかげた合意文書(注1)に基づいて、障がい者制度改革推進会議、同総合福祉部会にて検討がすすめられ、昨年8月にとりまとめられた「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言(骨格提言)」をふまえて、障害者自立支援法にかわる新法をつくるとして提案されたものです。昨年8月に改定され施行された障害者基本法には「その他の心身の機能の障害」という文言で、難病などをその範囲に入れることが書き込まれました。
法案は、「障害者自立支援法」を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(障害者総合支援法)とすることをはじめ、この法律が対象とする障害者の範囲には、難病などの人たちが新たに対象範囲に加えられることになりました(注3)。また、これまで重度の肢体不自由者しか対象としていなかった重度訪問介護の対象をすべての障害者に拡大する、障害者や家族等の活動に関する支援事業を新たに市町村地域生活支援事業に加えるなど14項目にわたって現行の障害者自立支援法からの改正が定められています。施行は2013年4月です。
日本の障害者施策における障害者の範囲は、身体障害者福祉法を基本にきめられています。身体障害者手帳(以下、「手帳」)の所持が障害者施策を受けるための要件となっている制度が多く、難病や慢性疾患でも、重症化して心身の状態がある程度固定しないと手帳はもらえません。手帳がとれない人でも社会的困難にある人たちはたくさんいるのですが、障害者施策が受けられる人は限られています。障害者総合支援法案は、身体障害者手帳制度を変えるまでには至りませんが「手帳のない制度の谷間の人たちにも施策を受けられる対象を広げる」として対象範囲を難病などに拡大することは、これまでの日本の障害者施策のあゆみを考えれば一歩前進といえます。
同時に、その対象範囲の具体的な規定は、1年後の施行時までに難病対策委員会等の議論をふまえて政令で決めるとされており、今後の難病対策委員会や健康局難病ワーキンググループでの検討が大変重要になってきます。現在、調査研究事業の指定を受けていない疾患や、先天性あるいは小児期に発症して成人を迎えている患者(いわゆるキャリーオーバー疾患患者)はどうなるのか、等々、不安な声も聞こえています。
また、受けられる福祉サービスについても、現時点で政府は「他の障害者と異なるものにすることは考えていない」と答えています(3月7日、衆議院厚生労働委員会での玉木朝子議員の質問への津田政務官答弁)。現在、難病施策として実施されている難病患者等居宅生活支援事業(ホームヘルプサービス、ショートステイ、日常生活用具給付事業)は、法律に基づく全国一律の制度となることで周知は進みます。しかし、現行の障害者自立支援法における障害程度区分では難病患者の特性は計れません。さらに受け皿であるホームヘルパーの養成やショートステイの整備、人材の確保など、1年後の施行までにやらなければならないことはたくさんあります。今後の国会での具体的な法案審議に私たちの声を反映させていきたいと思います。
○難病対策の見直しは…「法制化も視野に入れて」
一方、特定疾患治療研究事業をはじめとする難病対策の見直しは、いまどうなっているのでしょうか。昨年の秋以降、難病対策委員会が精力的に開かれてきました。そして昨年暮れに「中間的な整理」をまとめて、見直しにあたっての基本的な方向性を示しました。さらに、与党民主党の社会保障と税の一体改革大綱(2月17日閣議決定)のなかで「法制化も視野に入れ、助成対象の希少・難治性疾患の範囲の拡大を含め、より公平・安定的な支援の仕組みの構築を目指す」という文言が書き込まれました。(注4)
現在、健康局長の下に2つのワーキンググループ(研究・医療、在宅看護・介護等)が設置され、今後、難病対策委員会も含めて新しいしくみの在り方についての検討が進められています。当事者団体の代表として、JPAから伊藤代表理事と、あせび会(希少疾患患者会)から本間俊典氏が、難病対策委員会委員、2つのワーキンググループの構成員になっています。
現在の特定疾患治療研究事業は、疾患を指定して研究費として医療費補助を行うしくみであり、これを医療保険制度全体の改革で医療費が大変なすべての患者が軽減されるしくみに改めること、難病対策を医療費助成だけでなく福祉施策や就労、医療体制など総合的に推し進めること、そのための法整備をという願いはJPAが2009年の総会で提言したことです。それがようやく政府の検討俎上にあがったともいえます。検討の中身を、私たち当事者の声を反映したしくみにさせていかなくてはなりません。
私たちは「すべての難病・慢性疾患患者のための総合的なしくみづくり」にむけて、いよいよ正念場の年を迎えます。当事者、家族のねがいを一つに、JPAはその実現のために役割をはたしたいと思います。
(3月13日記。なお現在、JPAとしてのコメントを準備しています)
注1)3党連立政権合意文書から…「障害者自立支援法」は廃止し、「制度の谷間」がなく、利用者の応能負担を基本とする総合的な制度をつくる。
注2)改正障害者基本法 第2条(定義)
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。) がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
二 社会的障壁 障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
注3)障害者総合支援法案 第4条(障害者の範囲)
「治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が厚生労働大臣が定める程度である者であって18歳以上であるものをいう。」(児童福祉法における障害児の範囲についても同様の改定を行う)
注4)社会保障・税一体改革大綱について(平成24 年2月17 日閣議決定)
(12)難病対策
○ (3)の長期高額医療の高額療養費の見直しのほか、難病患者の長期かつ重度の精神的・身体的・経済的負担を社会全体で支えるため、医療費助成について、法制化も視野に入れ、助成対象の希少・難治性疾患の範囲の拡大を含め、より公平・安定的な支援の仕組みの構築を目指す。また、治療研究、医療体制、福祉サービス、就労支援等の総合的な施策の実施や支援の仕組みの構築を目指す